今回は、藤城先生の最初の絵本であり、
のちに強い思い入れからリメイクもされた、
「ぶどう酒びんのふしぎな旅」の特集です。
(それぞれの画像は、右下をクリックすると拡大できます)
こちらが1950年に出版された最初の絵本。
戦後わずか5年の時のものなので紙質は今とは比べようもないですが、
それでも物資の無いこの頃としては異例なほどに豪華な絵本です。
時に先生、26歳!
一方、こちらは2010年4月17日に発売されたリメイク版。
この日は先生の86歳の誕生日でした♪
つまり、新旧作品のあいだには60年もの時間が流れているのです(@_@)
デザインはオリジナル版の表紙にリスペクトをはらった絵柄で、
かつ、とてもモダンに仕上げられています。
リメイク版には実はもう1種類あり、
それがこちらのデジタル絵本。
語りが石坂浩二さんという贅沢なもので、物語の深みがいっそう増しています。
表紙絵も、絵本とは異なっていて見逃せません(^_-)-☆
新旧2冊の絵本を比べてみましょう。
デジタル絵本の表紙にも使われているヒロイン像は、
特に新版では圧倒的な美しさ!
先生の美人画の中でも屈指の1枚でしょう。
あしらわれている本物のレースが影絵部分と完璧に一体化し、
また藤(とう)のかごやぶどう酒びんの表現は信じられないくらいに緻密でリアルです。
方や旧版のほうも、帽子の部分には金属の網と思われるものが使われ、
26歳の先生の意欲的な試みが見て取れます。
レース部分をズームアップしてみました。
なんて繊細な美しさなんでしょう!
別の場面でも、ヒロインの美しさは際立っています♪
旧版のシルエットになっていた顔に閉じられた目が描かれ、
彼女の”思い”が見えるようになりました。
この絵のようなロマンチックな場面は、先生の作品では珍しいですね。
「風と共に去りぬ」などの、クラシカルな映画の一場面を見るようです(^_^)
水辺を駆ける2頭立ての馬車。
車上にはヒロインの姿が見えています。
この場面で驚いたことは、何と言っても馬車の向きが反対なこと。
右手にカミソリを持って制作する関係から、左向きの方が描きやすいはずなのですが、
新版では、なぜ先生はあえて右向きにされたのでしょう?
ずっとその理由が気になっています(^^;)
空になったびんの中に映える、甘やかな思い出。
まるで走馬灯のようです。
右上にはヒロイン自身とその恋人の姿も映し出され、
昔を懐かしむ彼女の、先ほどとは違った”思い”が描かれています。
このシーンでは、旧版の2つの作品が新作では1つになっていて、
新作にかける藤城先生の意気込みが垣間見えます。
燭台になっている中にあの時のぶどう酒びんが紛れ、
そしてその傍を歩む老人こそは、ヒロイン。
彼女のフィアンセが船の遭難で去り、何十年も経ったあとのある晩の光景です。
年老いたヒロインの住む家の様子。
新旧でいろんな部分が異なっているわけですが、
目に留まったのは、旧版で路上にいるヒロインが新版では省かれ、
代わりに家の2階の窓からかすかに彼女が見えていること。
ヒロインの独り暮らしに焦点を絞ることにより、
先生はご自分の言いたいことをより明確にされたのでしょう。
屋根に落ちて割れるぶどう酒びん。
新版の、逆光に映えるグリーンのガラスが印象的ですが
「影絵は奏でる」でも取り上げられているように、
この中には本物のびんの破片も混ざっています。
それがこちら。
影絵で描かれた”破片”と混ぜて使ってあるのですが、
作品では、うんと近づかないとその区別がつきません。
それほどまでに、本物の破片が影絵と一体化しているのです。
ちょうど、ヒロインのレースの帽子と同じように。
先ほどは遠景から見ていたヒロインの家。
軒先の鳥籠には、あのぶどう酒びんの口の部分が水差し代わりにぶら下がっています。
彼女の姿も見えていますが、でもその表情はほとんど分かりません。
ともすればやや重すぎる印象も与えかねないストーリーですが、
このような先生の控えめな表現があるからこそ、
この物語のテーマである”はかなさ”が、心に沁みてくるのではないかと思います。
先生のセンスには、やはり日本人の美意識に根差したものがあるんですね。
ところで、この絵本を開くたびに気になっていることがあります。
それがこの絵。
これを見るといつも、この素敵なこびとのワインが本当に発売されないかな~と、
なんともよこしまな妄想に取り憑かれてしまうのです(^^;)♡
なお末筆ながら、
「影絵は奏でる」の情報は総小判さんからいただきました。
いつも本当にどうもありがとうございますm(_ _)m
◆北日本新聞
:9「ぶどう酒びんのふしぎな旅」
◆過去記事
:ぶどう酒びんのふしぎな旅 その1
:ぶどう酒びんのふしぎな旅 その2
:ぶどう酒びんのふしぎな旅 その3
:ぶどう酒びんのふしぎな旅 その4
:<動画>関西テレビ「光の芸術家・藤城清治の世界」
:文庫本 その1(アンデルセン)
:「影絵は奏でる 1&2」
:「影絵は奏でる 3」
:「影絵は奏でる 4~6」
:「影絵は奏でる 7&8」